フィンガーマン
"なにかあった?"

"どうして?"

"最近変だから"

俺の焦りが菜摘にも伝わっていたらしい。
菜摘を不安にさせたくなくて、直接的なことを言うのを避けてきた。
しかし自分が失踪することを知っていたら、もしかしたら菜摘自身の力で事件を回避することが出来るんじゃないだろうか。
いや、そんなの無責任すぎる。
肝心なところで守ってやれないくせに、自分の身は自分で守れなんて俺には言えない。

"8月21日の予定は?"

"またそれ?"

"いいから"

もどかしさをつい菜摘にぶつけてしまった。

"ごめん"

"いいよ、隣駅に出掛ける予定"

隣駅……館林の言葉が頭をよぎった。

"ダメだ"

"どうして?"

"その日は絶対に隣駅には行かないでくれ"

"なんでよ"

"危険だから"

"危険?"

"そうだ"

"なにそれ預言?"

"そんなようなものだ、とにかく絶対に行くな"

"そう言われてもねぇ"

"隣駅の公園で殺人事件が起こる"

"は?"

"予言じゃない事実だ"

"嘘でしょ"

"信じてもらえないかもしれないが"

"そっちでは事件が起きたの?"

菜摘の口ぶりに何か違和感を感じた。
事件が起きた?
おかしい。
過去形になっている。

"もしかして気づいてたのか"

"会話になってないよ"

"茶化すな"

"未来の人なんでしょ"

"どうして"

"天気とかちょこちょこ変だなって思ってて"

菜摘も同じ違和感を覚えていたようだ。

"でもどうしてこっちが未来だって分かったんだ?"

"決定的だったのは壁の傷"

"壁の傷がどうした?"

"傷なんて無かったの"

"どういうことだ?"

"あの時私がつけたの、ハートマーク"

"なんだって!?"

"私がつけた傷、ハートマークだって当てたから"

"そういうことか"

"そっちはいつなの?"

"2018年、6年後だよ"

"6年後の私に会った?"

"いや"

"どこに引っ越したんだろうね私"

"探してる"

"おかしいな"

"なにが"

"私が6年後この家に会いに行けばいいだけだよね"

何も言えなかった。
俺は菜摘が会いに来られない理由を知っているから。

"それとも会いに行けないのかな"

菜摘は全て気づいているのだろうか。
心当たりがあるということなんだろうか。
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