好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
再び私の指にキスをし出した桔梗さんに私の腰がひける。
「き、桔梗さんっ!」
何でこんなに急に甘くなるの! キスしすぎだから!
「何? 言っとくけど、これからは我慢しないから。ああ、莉歩。その桔梗さん、ってのももうやめて、名前を呼んで」
蕩けそうに甘い切れ長の目が私をじっと見つめる。
「えっ、ええっ!?」
呼びたいけれど、いきなりは絶対に無理!
「何、その反応」
不貞腐れたように言う桔梗さん。
「え、だって、私、ずっと桔梗さんに名前で呼んでほしくて。桔梗さん、お店の女性の皆さんを下の名前で呼ぶのに私だけ呼ばないから! 私が、元々下の名前で呼ばないでくださいって言ったんですけど、私だって、桔梗さんの下の名前を呼びたかったけど、言い出せなくて、でもいきなりは……」
「あーそっか、そうだよな。ごめん、莉歩。俺もずっとお前の名前を呼びたかったけど、キスと同じで、お前が俺を本当に好きになってくれたら呼ぼうって決めてたんだ。そうじゃないと、俺の箍が外れるから」
ほんの少しばつが悪そうに顔を背ける桔梗さんが何だか可愛らしくて胸がキュウッと締めつけられた。
「何で笑う」
むうっと桔梗さんが不機嫌な顔をする。
「莉歩、俺の名前、これからいっぱい呼んで。敬語もやめて。さっきみたいにありのままの莉歩を俺だけに見せて」
ふわっと優しく微笑む桔梗さん。
それはとても幸せなお願い。
大好きな人と思いが通じることがこんなに嬉しいことだなんて知らなかった。
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