好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
避けているわけではない。ううん、本当は少し避けている。
仕事上ではいつも通りだ。普段と変わらず桔梗さんは検印を溜め込むし、ふらりと行方不明になる。皆に行き先を尋ねられて捜索することも日常茶飯時。仕事の話もきちんとする。
だけどプライベートでは、できるだけ近づかないようにしている。物理的な距離も心の距離も近付かないように。
これ以上、桔梗さんを好きになりたくない。
これ以上好きになったら、私はきっと離れられない。
それなのに毎日くれる電話もピアスも嬉しくて、毎日何度も見てしまうスマートフォンと鏡。そんな自分が悲しい。近い将来、失うものなのに必死で引き延ばそうとしている私はとてもズルい。

運が良いのか悪いのか。
二月に入ってプロジェクトが忙しくなった。提携ローンの制度を少し変えて新商品を作るらしい。峰岸さんの仕事量が増えるため、桔梗さんがサポートをするそうだ。そのため桔梗さんの出張の件数も増え、時折休日出勤もしている。帰宅時間も遅い。
桔梗さんは瀬尾さんの転勤後、状態が落ち着くまでとの条件で札幌支店に留まっていた。瀬尾さんの転勤後、一年近くは転勤しないようだったけれど、それもどうなるのだろう。いつか、彼はここからいなくなってしまう。
今となってはその現実がとても辛い。顔を見たら、溢れそうな気持ちが零れてしまうから、会いたいけれど会えない、この状況は私にとっては皮肉にも助かっている。峰岸さん、桔梗さんが仕事に忙殺されている姿は大変だなと思うけれど。
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