私の最後の夏の思い出
ー5章ー
「ゆーりちゃーん」
 次の日の朝、しっかりと準備し終わった私が居間でのんびりしていると、瑞樹くんの声が聞こえてきた。急いで玄関に向かっておはよう、といってから靴を履く。行こう、と差し伸べられた手を握って立つと、私たちはおばあちゃんに行ってきますと言ってから家を出た。家を出てしばらく歩く。真夏の太陽がジリジリと肌を焦がして、木陰にいる蝉がジージーと鳴いていた。たまにスーッと風が私たちの間を通り過ぎたが、私の体温は上昇していくばかり。その熱はどんどんと手の方に流れて行った。心臓がばくばく鳴っているのが手を通って瑞樹くんに伝わってしまうのではないかと考えると、さらに心臓が激しく鳴り響いた。
「ここ曲がって…この森の奥だよ。」
 そう言われて、ふと顔を上げる。後ろを振り返ると、いつの間にか家も見えないほど遠くまで歩いてきていた。もう一度視線を前に戻すと、思わず息をのむほど綺麗な森が広がっていた。都会では見られないような大きな木に、鬱蒼と茂る木々の向こうからは、小鳥たちの囀る声も聞こえてくる。
「行こうか。」
そう言って私の手を引く瑞樹くんの背中がとても頼もしく見えた。森の中はとてもひんやりとしていて、奥に進むと、大きな湖があった。突然ブワッと風が吹いて、木々を揺らした。その勢いで、一枚の葉が水面に落ちる。波紋が広がって、それが私の中の何かを動かした。
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