あけぞらのつき
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目覚まし時計が鳴ろうとするより早く、遠野の手がスイッチを切った。
座敷を仕切るツイタテの向こうで、ミサキの目覚めた気配がした。
赤い目をしたアルビノの鷹が、パサパサと羽根を振るわせた。
眠る前より疲れている。
遠野は布団に起きあがって、ため息をついた。
小野寺は生きているのか、死んでいるのか、疑問は増える一方だ。
ミサキに尋ねたところで、何も教えてはくれないだろう。
「遠野」
ツイタテの向こうから、ミサキの声がした。ミサキから話しかけてくるのは、珍しい。
雨でも降るのかと、遠野は口元に笑みを浮かべた。
「今日は、ちゃんと食べるから」
布団の中から、ミサキが言った。
***
揃いのお仕着せのメイドたちが、いつものように朝の食卓を整えた。
ミサキはやたら長いテーブルの席に座って、箸を手に取った。
可愛らしいピンク色の箸は、ミサキの手の大きさに合わせて、遠野が特注したものだった。
テーブルには昨日とは違い、和食のメニューが並べられた。
焼き魚、おひたし、卵焼き。味噌汁の代わりにけんちん汁が添えられている。そのどれからも、しょうゆの香りがしていた。
「やりすぎ」
遠野は、食卓に向かって呟いた。
料理番は、ミサキに誉められたことがよほど嬉しかったのだろう。
おかわりと差し出されたミサキの茶碗に、メイドたちがざわめいた。
「今日は、よく食べるじゃないか」
「慣れ、だ。それと、今日は調査にいく。確かめておきたいことがあるんだ」
「ミサキが、か?」