あけぞらのつき
想いの先に


***

一陣の風が、沢を渡っていった。

片目に白い眼帯を貼った修験者は、その額に浮いた汗を拭った。背負ったみやげが、ずっしりと重い。


山の湧き出る清泉の、その源泉よりも清らかな禁域で育った少女が、初めて漬けた味噌だという。

少しだけ大人びて、はにかんだ笑顔で嬉しそうに、届けて欲しいと託された味噌だ。


隻眼の修験者は、沢の水で喉を潤し、空を見上げた。

紅葉の隙間から見た青い空に、大きな白い鳥の影が一声鳴いた。


「そう急かすな。まだ日は高い。草木が眠る前までには、ちゃんと着くだろうよ」

修験者は重い荷物を背負い直して、歩き始めた。


水鏡のほとりに立つ、クチナシの古木に、少女の想いを届けるために。
< 93 / 93 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

ありふれた献立

総文字数/2,597

ホラー・オカルト1ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
人間は元来、被捕食者なんだ。 それが、君の望みなら。
禁猟区のアリス

総文字数/11,975

ホラー・オカルト17ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
ようこそ、僕のお茶会へ。 君の死因は、ギャクタイによるデキシ。 罪状は、虐待による殺害。 アリスがアリスでいる限り、僕の興味はアリスだけ。 さあ、ティータイムを始めよう。
散る桜

総文字数/8,653

ホラー・オカルト48ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
それでも消えてしまいたいと願うのは、彼女を救えなかった罪を贖いたい、自分のための言い訳に過ぎなかった。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop