2番目に君を、愛してる。

しばらく抱き合ったままだった。


東京では星が見えないね、
こんな時間だけどお腹空かない?、
明日寝坊しそうだね、

いつも以上に彼は饒舌だった。
私は新藤さんの胸に顔を押し付けたまま、なにも答えられなかった。


この状況が挨拶でないことは、私でも分かる。

新藤さんは一体なにを想って、私を抱き締めているのだろう。


けれど、新藤さんが誘えば喜んで駆けつける女性がたくさんいる中で、決して抱き心地が良いわけでない私を選んでくれたことが、少し嬉しい。






どれくらいそうしていただろうか。
ゆっくり新藤さんは私から距離をとった。

少し目尻の下がった新藤さんと目が合う。



「…人恋しい夜もありますよね」


「そうだね」


「人の温もりって落ち着きますもんね」


「ああ」


「でも新藤さんから同じシャンプーの香りがしたので、少しドキドキしましたよ?」


「君も良い香りがする」


新藤さんは私の髪を一房とると、わざとらしくクンクンと匂いを嗅いだ。


「…恥ずかしいので、止めてください!」


新藤さんは小さく笑った。


今流れている時間は、穏やかで甘ったるいものだ。

事件などなかったかのような平和な夜。



「寒いから入ろうか」


「早く寝ないと明日、起きられません」


またいつもの日常が始まる。
このまま何も起こらないで欲しい。

欠伸が出るほど退屈な日常の繰り返しで良いから、新藤さんと笑って過ごせる日々であって欲しい。


「どうぞ」


ドアを開けて先に入るように新藤さんを促す。





「…ずるい男で、ごめん」



部屋に入る直前、
私に背を向けてそう言い残した。

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