イジワル御曹司様に今宵も愛でられています
 花芳での打ち合わせは二時間ほどで終了した。

 依頼した花材は、全て調達の目途が立っているということで一安心。花芳のスタッフに別れを告げ、再びタクシーに乗り込んで京都駅へ向かい、このまま東京にトンボ返りするのかと思いきや。


「すみません、比叡山まで」

「えっ、京都駅に戻らないんですか?」

「うん、まだ戻らない」

「でも……新幹線の時間は?」

「問題ないよ」

 確かに最終までまだ時間はあるけれど、明日もあるんだし、東京にあまり遅く着くのもどうかと思うんだけどな……


 心配する私をよそに、二人を乗せたタクシーはぐんぐん坂道を上っていく。智明さんが運転手さんに指示を出すと、タクシーは途中から脇道に逸れた。

 左右を竹林に囲まれた道をさらに奥へと進むと、突然視界が開け大きな木製の門が現れた。門をくぐり、タクシーは入り口から続く砂利道をゆっくりと走る。

 広大な敷地の奥に、立派な和風建築の建物が見えた。



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