※「触るな」って言ってるのに、彼には伝わらないようです。
「ふざけんな。離して。」


「んーー。それは無理かな。ごめんね?」


全然反省してない様子で首を傾げながら私を見下ろすこいつに本当に腹が立つ。




こうなったこいつには何を言っても無駄だろう。
まともに話すようになって数日だけれど、それくらい私にはわかる。
抵抗するより諦めた方が早い。
そんなことを考えてたらはぁ…と無意識に大きなため息が出た。



「やるならとっととして。私、明日も仕事なの。」


抑揚のない声でそう言うと何故かやつが顔をしかめる。



「もー、紅ちゃんってばムードもなにもないじゃない。」



ふっと軽く口角を上げてるつもりなんだろうけど、何故か少し険しい顔をしながらいつも通りの口調でそういう。


あんなに強引だった手つきも、すぐにでも振り解けそうなほど柔らかなものになっていたけれど、その手を振りほどく事はしなかった。



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