目覚めたら、社長と結婚してました
 試しに七巻、八巻と続けて確認してみるが結果は一緒だ。記憶を失ってから、初めて『思い出す』という感覚に私は夢中で次々続刊を手に取っていった。

 だから、どうということはない。きっと怜二さんと結婚して、続きが気になっていたこれを読んだだけ。わかる事実はそれだけだ。

 そして最終巻までいきついて同じように本の表紙を捲ったとき、なにかが挟まっていることに気がついた。

 四つ、五つ折り? この本の持ち主は怜二さんだから、彼のものかもしれない。

 勝手に見ない方がいい。ただ、このときの私はなぜか、なにかに突き動かされるように丁寧に用紙を開いていった。そして中身を確認して思わず息を呑む。

 ドラマや映画でしか見たことがないA3用紙は本物の『離婚届』だった。しかも空白じゃない。二人分の氏名や住所を記す欄に、片方だけが記入されている。『天宮柚花』と私の名前だ。

「なん、で?」

 理解できない。どういうこと? どうして私は離婚届を書いたの? 私は怜二さんと別れたかったの?

『お前、俺と別れたいのか?』

 脳裏に過ぎった怜二さんの台詞に私は眉をひそめる。今のは、なに? すごくリアルで、悲しそうな顔だった。

 頭がズキリと痛む。なにかが押し寄せてくるような感覚に意識が飛びそうだ。私は頭を押さえて、その場にうずくまった。
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