目覚めたら、社長と結婚してました
傷つけた。私の勝手な思いで一方的に。……どうしよう。
泣き出しそうになるのをぐっと堪える。ここで私が泣くのは卑怯だ。しっかりしろ。私は軽く頭を振る。
もうひとりであれこれ考えるのはやめて、ちゃんと怜二さんと話し合おう。どういう形であれ、私たちは夫婦なんだから。自分の気持ちを伝えて、彼の本音も教えてもらいたい。
机の上に置かれた離婚届をじっと見つめる。まさか彼に見つかるなんて。
どうしようかと迷った末、私はおとなしく元の場所に戻した。
これについても話さないと。とにかく今はじっとしていてもしょうがない。私は買い物に行くことを決めた。
怜二さんの好きなカスレを作ろう。このマンションで住み始めた頃、得意料理だと彼に振る舞うと意外にも気に入ってくれた。
材料を揃えるには、ちょっと遠出が必要だけれど、せっかくの休みだし。
固く決意して、ピンクのチェスターコートを羽織って私は家を出た。大通りを渡るには歩道橋を使うしかなく、私は低めの階段を早めの歩調で上っていく。
その途中で綺麗な老婦人に声をかけられた。「寒いですね」とか他愛ない世間話から始まり、渡りたい方向が一緒だったのもあってなにげない会話を交わす。
「あなた、どこか元気がないわね。気分でも悪いの?」
他人に指摘されるとはよっぽどらしい。なんでもないですよ、とすぐに誤魔化そうとしたけれど、このときの私は正直に告白した。
誰かに聞いて欲しかった気持ちもあったのかもしれない。
泣き出しそうになるのをぐっと堪える。ここで私が泣くのは卑怯だ。しっかりしろ。私は軽く頭を振る。
もうひとりであれこれ考えるのはやめて、ちゃんと怜二さんと話し合おう。どういう形であれ、私たちは夫婦なんだから。自分の気持ちを伝えて、彼の本音も教えてもらいたい。
机の上に置かれた離婚届をじっと見つめる。まさか彼に見つかるなんて。
どうしようかと迷った末、私はおとなしく元の場所に戻した。
これについても話さないと。とにかく今はじっとしていてもしょうがない。私は買い物に行くことを決めた。
怜二さんの好きなカスレを作ろう。このマンションで住み始めた頃、得意料理だと彼に振る舞うと意外にも気に入ってくれた。
材料を揃えるには、ちょっと遠出が必要だけれど、せっかくの休みだし。
固く決意して、ピンクのチェスターコートを羽織って私は家を出た。大通りを渡るには歩道橋を使うしかなく、私は低めの階段を早めの歩調で上っていく。
その途中で綺麗な老婦人に声をかけられた。「寒いですね」とか他愛ない世間話から始まり、渡りたい方向が一緒だったのもあってなにげない会話を交わす。
「あなた、どこか元気がないわね。気分でも悪いの?」
他人に指摘されるとはよっぽどらしい。なんでもないですよ、とすぐに誤魔化そうとしたけれど、このときの私は正直に告白した。
誰かに聞いて欲しかった気持ちもあったのかもしれない。