目覚めたら、社長と結婚してました
 男性は社長と同年代くらいで、細身だけれど整った顔立ちをしている。明るめの茶色い柔らかそうな髪に、少しだけつり上がってぱっちりとした瞳は猫のようだ。

 今は申し訳なさげに眉を下げている。隣のご婦人も同じだ。多くはない髪を綺麗にまとめ上げ、淡い紫色のカットソーに紺のスカートと上品な装いだ。

「この度はうちの祖母のせいで怪我を負わせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」

 深々と来訪者ふたりに頭を下げられ、私は動揺が隠せない。まさか自分が歩道橋から落ちたのに誰かが絡んでいたとは。

 覚えていないとは言えず、新たな情報に私はまた混乱するばかりだった。

 男性の名は玉城蒼士(たまきそうし)さん。女性は彼の祖母の敏子(としこ)さん。

 話によると歩道橋を利用している際、たまたま一緒になった私に敏子さんが世間話を振ってきたことが発端らしい。

 なにげない会話を繰り広げながら、敏子さんがあまり足がよくない、ということを聞いた私は階段を降りるのを不安そうにしている彼女を支えることを提案したのだという。

 支えるといってもせいぜい手を繋ぐくらいで、手すり側を敏子さんに譲り、私たちは並んで階段を下りていた。

 しかし途中で敏子さんが足を踏み外しそうになり、とっさに私が止めるように手を引いたものの、その反動で私が階段から落ちてしまったのだという。

「いつもならエレベーターを使っていたのですが、ちょうど故障中だったみたいで。本当にすみません」

「い、いえ。とくに大きな怪我もありませんでしたし、気にしないでください」

 頭を下げる玉城さんに恐縮してしまう。それから彼の相手は伯母に任せることにした。見舞金や保険のことなどを口にしていて、伯母も私と同じように落ち着かない顔をしている。
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