目覚めたら、社長と結婚してました
 ただ、今日はそういうわけにもいかない。エレベーターに乗り込んだところで私から彼に話しかけた。

「本のお礼、なんらかのかたちでさせてくださいね」

「必要ない」

 素っ気なく返され言葉に詰まる。

「で、お前の夜遊びはいつする予定なんだ?」

 おかげで続けて紡がれた言葉に、私はすぐに頭がついていかなかった。

「するときは言え。付き合ってやる」

「どうされました?」

 まさかの申し出に、混乱しかない。怜二さんは軽く息を吐いた。

「自分のところの社員になにかあったら後味悪いだろ」

「だから、なんで私になにかあるのが前提なんですか!」

 彼の返事にどっと項垂れる。なんだ、そういうことか。からかっているのか、真面目なのか。こんなふうに気遣ってくれるのは私が社員だからだ。

 近藤さんの手前、というのもあるのかもしれない。それでも忙しい彼がこう言ってくれるとは。私は考えを改める。

「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。怜二さんは社員思いなんですね」

 笑顔で告げると、彼は虚を衝かれた表情をしながらも軽く笑った。

「今、知ったのか」

「はい。これからはもっと社長として敬うことにします」

「敬うくらいなら、おとなしく言うことを聞いておくんだな」

 軽快なやりとりに、私はやっぱり笑顔になる。

 彼に出会えてよかったな。バーに足を運べたこと。ずっと気になっていた本の続きを読めること。たくさんのものを得た中で、自然とそう思えた。
< 47 / 182 >

この作品をシェア

pagetop