目覚めたら、社長と結婚してました
 自分から怜二さんに身を寄せると、彼は応えるように私の背中に腕を回してくれた。

 より密着して彼とのキスにますます酔っていく。気づけば両足をソファに乗り上げ、抱きしめられる形になっていた。

 何回まで数えていられたかな。

 そんなことを頭の片隅で考えて、そっと目を開けた。すると彼も私から顔を離す。距離ができたことが、なんだかすごく寂しく思えた。

「もう少し抱きしめててほしいです」

 彼のパジャマを掴み、ストレートにねだってみる。上手い言い方なんて知らない。男女間の艶っぽい誘い方も。

 けれど怜二さんは、からかうことなく柔らかく笑ってくれた。

「そうやって、お前は素直に甘えてたらいいんだ」

 私は腕の中にすっぽりと収められた。彼の温もりと爽やかな香りが鼻孔をくすぐり、伝わってくる心音が心を落ち着かせていく。

 こんなふうに彼を受け入れるのは結婚しているから? 記憶のなくす前の私が彼のことを好きだったから? これが自然な流れなのだとしても、こうして彼に触れられるのを選んだのは今の自分だ。

 濡れた唇をきつく結び、彼の胸に顔をうずめた。怜二さんは打ったところに遠慮してか、遠慮がちに頭を撫でてきた。

 大丈夫なのに。激しいわけでも深い口づけをかわしたわけでもない。抱きしめるのも、もっときつくでいい。

 ――もっと、ちゃんと触れて欲しかった。

 心の底からふっと湧いた考えは、今の自分のものなのか。

 思考力が落ちていく。声ももう出せない。彼の温もりに包まれながら私は瞼を閉じた。
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