目覚めたら、社長と結婚してました
 私は遠慮がちにシンプルなクロワッサンを選んだ。バターのいい匂いがたまらない。そこで皿の傍らに見慣れないカップが置かれる。

 胡桃色の液体がたっぷり注がれており、中身はすぐに察した。

「さすがにカフェオレボウルはないけど、これでいいかな」

「ありがとうございます」

 近藤さんの笑顔に私もつられる。こういうなにげないところに近藤さんの気遣いや知識の広さを感じる。それはここを訪れる客層にも言えることだ。その証拠に島田さんも意味を察したらしい。

「フランスといえばカフェオレか。でも俺はエスプレッソをもらおうかな」

 フランスでは朝食にカフェオレとパンの組み合わせが定番だ。それを知っていて、近藤さんはわざわざカフェオレを出してくれたらしい。

 島田さんのエスプレッソを準備しながら、近藤さんは怜二さんに話しかける。

「怜二はブランデーコーヒーにしてやろうか」

「いや、俺もコーヒーでいい」

 近藤さんの提案を怜二さんはさらっと拒否する。島田さんがエスプレッソを待つ間に話しかけてきた。

「柚花ちゃんのご両親はパリでパティスリーを経営してるんだっけ? あの激戦区で店を出すなんて、よっぽど腕が立つなんだね」

「留学していた縁もありますし『人と運に恵まれた』といつも父は話しています。おかげさまで系列店を出す話も進んでいるようで」

「そりゃ、すごい。お父さんは経営者としての才能もあるんだね」

 島田さんの目尻に皺が刻まれる。
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