目覚めたら、社長と結婚してました
 しっかりしろ、どうせまたからかわれているだけだ。この体勢だって、狼狽える私を見て楽しむためで、意味はない。

 私は顔を上げ、彼の顔を見た。

「今日はありがとうございました。念願の夜遊び、とっても楽しかったです。その、私が相手だと癒しどころか疲れさせてばかりで申し訳ないのですが……」

 自分で話題を蒸し返すのも、と思いつつ肩を縮める。「本当だな」っていつものノリで返されるのを覚悟した。

 ところが怜二さんは口元をわずかに緩めて、私のおでこに自分の額を合わせてきた。

「いや。十分に癒された」

 怜二さんって天然? それとも全部計算なの? 狙っているわけじゃないなら真正のタラシだ。

 ずるい。最初に会ったときに失礼なほどはっきりと、好みじゃないって言ったくせに。私に優しくするのは自社の社員だから?

 私たちの仲になにも期待することない。それは異性というのを意識せずに付き合えるから私にとっても“有難い”存在だったのに。

 こんなふうに優しくされると、どうしても気持ちが揺らぐ。

 最後にもう一度、夜景を目に映す。今度ここに来ることがあっても、それは彼とではない。怜二さんだって私以外の女性と来るんだろう。

 でもよかった。ここに彼と来られて、連れて来てもらえて。

 今だけと言い聞かせ、彼の温もりを感じながら私は様々な気持ちに蓋をする。

 怜二さんは、私にとって初めての夜遊びに付き合ってもらうには十分すぎるほどの存在だった。
< 93 / 182 >

この作品をシェア

pagetop