Some Day ~夢に向かって~
「あの子達が、なんであんなにやる気がないのか、正直俺にはわからなかった。受験控えて、勉強が忙しいからめんどくさいって言うなら、まだわかるけど。俺の周りにたむろしてて、帰る素振りもなかったし。」


「たぶん、先輩と一緒にいたかったんだと思います。」


私は、いつも先輩は、彼女達と一緒に帰ってるんだとばかり思ってた。でも


「悠ちゃんにそう思わせたのは、こちらとしては成功だったけど、実際は1回も一緒に校門出たこともなかったよ。先輩はいつも図書室に直行だったし。」


昨日から急に距離が近づいた桜井さん・・・いや加奈ちゃんは、昼間屋上でそう話してくれた。


「そうなのかな?それはよくわからないけど、とにかくまずいと思った俺は、自分は与えられたことをちゃんとやろうと思った。そうすることで、彼女達が何かを感じてくれれば、そう思ったんだ。」


「直接彼女達に言えばよかったじゃないですか?ちゃんとやろうって。」


「そうだよな、俺の方が年上なんだから、そういうべきだったんだよ。でも言えなかったんだ。」


「どうしてですか?」


「感謝してたからなぁ。」


「感謝、ですか?」


先輩が発した意外な言葉に、私は戸惑う。


「最初の頃はクラスで話せる奴が、野球部の後輩2人とあとは水木くらいだったから。そんな時に、あの子達が、向こうから俺に近づいて来てくれた。正直嬉しかった。」


先輩はそんな風に思ってたんだ。


「でもそれとこれとは話が違う。俺は間違ってた、それを水木にビシッと指摘されて、恥ずかしかった。」


「止めて下さい、出しゃばった上に、勘違いしてたんですから。」


「言わなくていいことを、君に言わせてしまった。辛い思いをさせたよな、許してくれ。」


まっすぐ私を見て、そう言ってくれた先輩の気持ちが嬉しくて、思わず涙が溢れてくる。そんな私の頭に、先輩はポンと手を置く。


「俺、今回の事で、学んだことがある。それは伝えたいことは必ず言葉にして伝えなきゃ、相手に伝わらないってことを。だから、俺はここに来た。」


(私に伝えたいことがあるってこと?)


心の中で、そう聞いた私に、先輩は頷く。
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