Some Day ~夢に向かって~
そこに立っていたのは美人さん、それも絶世の美女と言ってもいいくらいの美人さんだった。


美人さんは言葉とは裏腹の、素敵な笑顔を浮かべて、先輩に近づいて行く。


「人聞き悪いこと言わないでくれよ。別に、サボってるわけじゃない。お客様に我がクラスのメニュ-のご案内をしてんだから。」


彼女の存在に気付いた先輩は、苦笑いを浮かべて、言葉を返す。


「さぁ、どうだか。」


突然の、それもいかにも先輩と親しげな美女の登場に、ざわめく周辺。


でも私はこの人を知っている、たぶん周りにいる在校生の中にも知ってる人はいるはず。


「来てくれたんだ、みどり。」


「白鳥くんがちゃんと仕事してるか、心配だったから。先輩風吹かせて、ふんぞり返ってるんじゃないかと思って。」


先輩を「白鳥くん」と呼べる女子はもう、この学校にはいない。そして先輩も当たり前のように「みどり」と名前呼びしてるこの人は、木本みどり先輩。そう、3年間で5度の甲子園出場を果たした先輩達の明協野球部を支えた名マネ-ジャ-。


そして、たぶん今でも先輩の心の中にいる人・・・。


「久しぶりに会ったのに、失礼だなぁ。ホールでの接客に校舎を回っての宣伝活動。大車輪の活躍だよ、なぁ。」


「は、はい。」


いきなり話を振られて、慌ててうなずく私。


「そう、ならいいけど。」


2人とも笑顔でいい感じ。私は居たたまれないものを感じるが、先輩を置いて1人でクラスに帰るわけにもいかないし・・・。


「1人で来たの?創は?」


「誘ったんだけど、やっぱり練習が忙しいみたい。テッチャンの代わりにしごかれて、大変だってぼやいてたわよ。」


「俺だって、柄にもない勉強に勤しむ毎日なんだ。もうジンマシン出そうなんだけど。」


「何言ってんの、学生が勉強するのは、当たり前でしょ。」


何の話をしてるのか、私にはさっぱりわからないけど、先輩がこんなに楽しそうに、また気兼ねない表情で話すのを、少なくとも先輩が学校に戻って来てから、見たことがない。


「松本とは連絡とってるのか?」


「うん、電話やLINEがほとんどで、相変わらず滅多に会えないけど。仕方ないんだけどね・・・。」


「大丈夫か?」


「うん・・・大丈夫。もうあんな思いは絶対したくないから、私も松本くんも。」


「そうか、ならよかった。」


一瞬寂しそうな表情を浮かべた木本さんに、先輩は心配そうだったけど、その後の彼女の言葉に少し安心したようだった。


「やべっ、こんな時間だよ。そろそろ戻らねぇと、みどり、後でウチのクラス来てくれよ。自慢のクレ-プ、是非食べてってくれ。じゃ、戻ろう。」


「ちょっと待って、白鳥くん。彼女、ちょっと借りてもいい?」


急いで戻ろうとする私達を呼び止めると、木本さんは意外なことを言い出した。


「私、ですか?」


戸惑う私に、木本さんは頷く。


「わかった。じゃ、俺は先に戻ってるから。」


(えっ、先輩ホントに私を置いてっちゃうの?)


不安な私の気持ちにお構いなしに、先輩は私達に手を挙げると走って行っちゃった・・・。
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