Some Day ~夢に向かって~
昼休み、いつものようにお弁当を食べていると、先輩が顔を出した。


「岩武、そろそろ行こうぜ。」


「あっ、わざわざすみません。じゃ、行ってくるね。」


私達に、にこやかに手を振ると。由夏は先輩と連れ立って行ってしまった。どうやら本当に、山上先生の所に売り込みに行くらしい。


2人の後ろ姿を、私は複雑な思いで見送る。先輩は私と目を合わせようともしなかった。私達はあれ以来、ずっと口を利いていないから。


由夏達には、いろいろ言われたけど、私はみどりさんが、先輩の家庭教師になることが、どうしても納得いかなかった。


『俺にとって、最高の家庭教師だよ。』


あの時の先輩の口調は本当に嬉しそうだった。そして「最高の家庭教師」って・・・やっぱり先輩にとってみどりさんは特別な存在なんだ。


でもみどりさんは松本先輩の彼女だよね。そして、みどりさんはこの前の文化祭で、わざわざ私を訪ねて来て


『白鳥くんのことをお願いね。』


って言った。私の先輩に対する思いも聞いてくれたはず。なのに、どういう経緯か知らないけど、先輩の家庭教師って・・・。先輩の部屋で2人きりでって、モヤ付いてるのは、私の想像が逞し過ぎ?


先輩は私が、無視を始めてからも、話し掛けたり、メ-ルを送ったりしてきたけど、私が一切答えなかったから、とうとう諦めて、今日に至る。


「今日の由夏はパワフルだね。」


ふと聞こえて来た加奈ちゃんの声に、私は我に返った。


「そうだね、あの子も松本先輩のことは、遠くから見ているだけで、いいって言ってたんだけど。」


そういう意味では、似た者同士だった私達。でも今日の由夏は、確かに違う。


「加奈も負けてられないな。」


「えっ?」


「悠ちゃん。」


真っ直ぐに私を見る加奈ちゃん。


「突然近づいて来た私を、受け入れてくれてありがとう。」


「加奈ちゃん・・・。」


突然、何を言い出したのか、私は加奈ちゃんの顔を見つめる。


「悠ちゃんと友達になれて、嬉しかったよ。でも・・・こうやって一緒にお昼食べるのも、これで最後になっちゃうのかな。」


「どうして?」


驚いて聞き返す私に、加奈ちゃんは寂しそうな笑顔を浮かべた。


「この間、ここで悠ちゃん言ったよね。例え私と絶交することになっても、先輩を誰にも渡したくないって。」


「・・・。」


「それって、私も同じ気持ちだから。」


そう言い残すと、加奈ちゃんは私を残して、行ってしまった。
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