幼馴染みと、恋とか愛とか

(ほらまた)


指の先がガタガタと震えてる。
それを押さえ込むように手を包み、ぎゅっと目を瞑って祈る。


(どうか紫苑にだけは、この事実を知られないようにしたい)


紫苑は救世主として、今も私の両親に崇められてるから。


でも、私が怖い思いをしてる頃には彼は忙しそうで、頼ることも出来なくて眼中にも入れられなかった。


あの時、紫苑に助けてと言えてたら、結果はどう変わってるだろうか__。



(そんなの考えても虚しい)


自分にも見栄があったから、私は紫苑には頼らなかった。

いつも強気でいるとこしか見せてこなかったから、恐怖に怯える姿を見せるのが嫌だった。


(意地なんて張らずにいれば良かったのかもしれないけど)


でも、どうしても言えなかった。

紫苑が幼馴染みだからこそ話せない。

幼い頃からの自分を知ってる彼だからこそ、ずっと紫苑の知ってる私でいたかったんだ___。




その日、紫苑は退勤時間ギリになって戻ってきた。

私がレンジでおでんを温め直すと嬉しそうにパクついて、「やっぱり萌音の作る料理は美味いな」と笑った。


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