彼の隣で乾杯を
「で、出張ってどこに行くの?」

「・・・S市」
高橋は少しだけためらった後、口を開いた。

あ、あれ。S市?
S市って。

「ねぇ、もしかしてその出張、副社長も一緒とか?」

「そう。今度のプロジェクト、本社で企画しているけれど実働はうちの支社とS市のTHコーポレーションなんだ。軌道に乗るまで、本社のメンバーもあっちに行って動くことになる。だからこのプロジェクトのリーダーの副社長も1ヶ月程度は向こうに行くことになるな」

そう、そういうことか。
ようやくタヌキの策略を理解した。

私は少しだけためらって口を開いた。

「神田部長ってどこまでタヌキなんだろうね」

「は?」
高橋が”何を今さら”という顔をした。

「早希ってさ今、S市にいるのよね。S市は早希の実家がある場所よ」

高橋はみるみるうちに驚いた顔に変わった。
私は高橋に早希が無事でいることは伝えたけれど、どこにいるかは教えていない。

「まさか・・・」

「はじめから仕組まれていたのよ」私は大きく頷いた。

「まじか」

早希から今の職場はタヌキに紹介してもらったから就活しなくて済んだと聞いている。
それってたぶんTHコーポレーションのことだ。

かなり昔の話だけれど、THコーポレーションはもとはうちの会社の子会社だったところ。
そこが今は高橋社長が指揮を執り関連会社として独立している。
そして、今の社長の息子が・・・私の隣にいる高橋良樹というわけなんだけど。

高橋が何も知らないということは、高橋の父親であるTHの社長がおそらくはタヌキとグルになっているのだろう。
そういえば、二人は古くからの知り合いだ。
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