彼の隣で乾杯を
そのまま唇にキスが降りてきて、昨夜の甘く切ない気分がよみがえってきた途端、彼の唇が離れていってしまった。

「バカ由衣子。ゆうべ俺がお前にされた仕打ちを思い知れ」

目を開けると困ったような笑顔の高橋の顔がある。

ああ、そっか。私、ゆうべキスしながら気持ちよくなって寝ちゃったんだ。

「ごめん」

しゅんとうなだれると
「いい。今夜期待してるから。お前、今夜は絶対飲みすぎるなよ!」
またも甘いキスが落ちてきた。

これ以上はまずいと思った瞬間「やべっ、これ以上はまずい」と高橋が離れていった。

一緒じゃん。
ぷっと吹き出すと、高橋もニヤッと笑った。

「今夜は期待させてもらうよ。ユイコチャン。さっさと出かけないと朝から襲われて世界遺産を見に行けなくなっちゃうよー」

ふざけた調子で言われて私は飛び起きた。

「やだ!せっかくここまで来たんだもん。せっかくだから行ってみたい。もうここには来られないかもしれないし。」

「お前、何度もイタリア出張してるだろ」
「だって仕事で来てるだけで、プライベートな時間なんてないし。それに大都市にしか来ない」

「はいはい、じゃあ支度して出るぞ」
「うん」

弾かれるようにベッドを飛び出して出かける支度を始めた。

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