彼の隣で乾杯を
『妃佐さん』は一瞬ひきつった顔をしたけれど、すぐに立て直してまた笑顔になった。

「もう東京にお帰りになるのかしら？」
「ええ、今から戻るところです」
「私は明後日戻る予定なんです。戻ったら連絡させてもらいますね。それでは」

ニコッと高橋に笑いかけると返事をする隙も与えず、私なんていなかったように見向きもしないで去って行った。
嫌な感じ。
高橋が彼女に私を紹介しようとしていなかったことにも少し傷つく。

「ね、誰？」

「ああ。ちょっとした知り合い。変な関係じゃないから由衣子は気にすんな」

「変な関係ってどんなのが変な関係なのよ」
高橋の言い方に何か引っかかりを感じる。

「ああ、余計なこと言ったか、俺」

「そうだね、言ったよ。で、変な関係ってどんな？」

『妃佐さん』の態度が気になって仕方ない私は追及の手を緩めない。
高橋は嫌そうに『妃佐さん』が去った方向に目をやった。

「あの人は昔からの知り合いで今は取引先関係の知り合い。めんどくさいし海外事業部には関係ないから由衣子を紹介しなかった。男と女の恋愛関係はないから気にすんなよ」

くるっと振り返って私の髪をすくって軽くキス。

「俺たちは男と女の正しい恋愛関係だな。お前が一番大事だ」

彼女のことは気になったけれど、今の高橋の言い方に嬉しくなってとびきりの笑顔を返した。



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