彼の隣で乾杯を
「何が目標なのかは考えた方がいいと思うの」

入社したばかりの頃からずっと”腰かけOL”だと自分のことを言っていた早希だったけど、今は立派なタヌキの飼育係として常務秘書を務めている。

今の彼女は前までの地味スタイルをやめてもともと綺麗だった容姿をさらし、仕事の出来る綺麗な女性として常務秘書の地位を確立しているし、副社長と結婚してもすぐには退職しないらしい。
妊娠出産という節目に来たら生活スタイルを考えると言っていたけれど。

「由衣子ならどこでだって仕事をしていけるし。アクロスじゃなくてもイタリアでも、他の国でも。うちの支社や・・・THコーポレーションでだって」

「異動?転職?そっかTHコーポレーションに転職ね。それは考えたことなかったな」

ふふっと笑った。
そっか、追いかけるって手があったか。

アルコールが身体に回り、気が大きくなったせいかもしれないけれど、それはありだと思う。

安定志向の私は今まで転職なんて考えていなかったけれど、思い切って追いかける、それは考えてみてもいいかもしれない。

彼が帰って来ないのならこっちが押し掛けてしまおうか。
フラれたらフラれたで居心地悪ければその時はまた転職してもいい。もちろん、フラれたくはないけれど。

霧が晴れたようにスッキリして、何故だかお腹も空いてきた。

「追加でお料理頼んでいい?今日はとことん飲もうよ」

私の笑みに早希も笑う。

「おっけぃ。今夜は由衣子の部屋に泊めてね。明日の朝のしじみのお味噌汁もよろしく」

もちろんですとも。
何杯分でも作って差し上げます。

「すみませーん、焼酎下さーい。梅でー」
「あ、私は生ビールお代わりで」

はーい、ただいまーと店の奥から女の子のかわいい声が戻ってきた。

今夜のお酒はとても美味しい。
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