彼の隣で乾杯を
「由衣子の嘘つきー。経団連のパーティーだから全員ドレスアップって言ってたじゃない」
早希はぷうっと頬を膨らめた。

もちろん私がパーティードレスなんて着るはずがない。いつもの地味なスーツ姿。
おめかししているのは早希だけだ。

「これも会社のためだと思いなさいよ。事がこじれて会社同士のトラブルに発展したらどうするの。だいたい来月のお披露目がちょっと早くなっただけでしょうが」
「でも、心の準備ってものが。他にも準備がー」

「他の準備も完璧にしたでしょ。何のために先週からエステだネイルだって私が連れ出したと思ってるのよ」

「あ、あれってこのためだったんだ・・・」

「そうよ。私に感謝して欲しい位だからね」
呆然とする早希にパチンとウインクしてタイミングよく控室に迎えに来た副社長に向かって彼女の背中を押した。

「ありがとう、佐本さん。早希、今日もとても綺麗だ。さあ、みんなに自慢させてくれ」

早希を抱き寄せて頬に額に髪にキスを落とす副社長。
真っ赤になる早希は可愛いけれど私の前ではやめてくれ。

「私が蹴飛ばしたくなりますからさっさと行ってください」
軽くにらんで嫌味を落とした。

「わかってると思いますけど、慣れない早希のことを考えて下さいね」
更にひと言追加した。
自社の副社長に対する敬意は微塵もないことは勘弁して欲しい。

「わかってるよ、佐本さん。今回のことは本当に感謝してる。早希のことは任せてくれ」

副社長は私の嫌味に嫌な顔をせず、爽やかな笑顔で私に頭を下げると早希の腰に手を回した。
早希はやっと笑顔を見せて私に手を振る。

「覚悟決めて行ってくるね」

「女は度胸よ。行ってらっしゃい」

私に送り出され二人は挨拶回りに行ったのだった。

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