彼の隣で乾杯を
でも、最近早希の様子が変わっていて、どうやら早希が新しい恋をしているんだろうなとは思っていたけど、私はちょうど忙しい時期だったし早希も話したがっていないようだったから様子を見ていたところだった。

しかし、その相手がまさか自分とこの副社長だったとは。
それで私に何も言わなかったのか・・・いや言えなかったのか。

おまけに最近早希は実家の家族のことでいろいろ悩んでいたらしい。
シングルマザーのお姉さんの子どもの世話や実母の看病のために会社を退職して地元での転職を考えているのだと聞いたのもつい昨日のこと。
昨夜、ホテルのバーで飲む前に食事をした時に聞いたのだった。

親友の悩みに気が付かず仕事ばかりしていた自分が情けない。

副社長と出会ったバーから私の腕を引っ張って逃げるように彼女は私の部屋に来たのだけど、早希は明らかに落ち込んでいた。

彼女のお気に入りのオレンジ色のクッションをお腹に挟みこみ膝を抱えて丸くなっている早希にコーヒーの入ったマグを差し出すと、彼女はコーヒーの香りに誘われたらしくゆるゆると顔を上げた。

「はい。まず飲んで。今夜は言いたくないなら言わなくていいから」

「・・・ありがと」

泣きたいのなら泣けばいいのに。
早希の瞳はひどく充血しているのに堪えているらしく涙は零れてはいない。

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