もう一度、愛してくれないか

『サーヤちゃんは、ほんっまにええ子やさかい、あんじょう大事にしたってくださいや。
東京と大阪で離れたはるし、それにうちのアホ息子が言うには、女の人が放っとかれへんほど、専務さんはごっつうええ男らしいから、そら魔がさすこともありますわなぁ。そこは土下座でもなんでもして、サーヤちゃんに許しを乞うてください……何事も誠意を尽くせば、絶対に通じますから』

……なんで、おれが土下座して紗香に許しを乞わねばならんのだ?

『せやけど、専務さん……夫婦ってなんやろねぇ』

伊東の母親の「凌牙」は、まるでなにわの舞台女優・藤山◯美がエンディングに向かう際に、今までのドタバタ喜劇から観客をほろっとさせる「ええ話」で大円団に持っていくときの雰囲気を、独学で(かも)し出していた。

『主人のことは「()てもうたろか、ワレ!?」って思うときもありますけど』

……そんなときがあるのかっ!?

スマホの向こうで、
「オカン、ガラ悪いから河内(かわち)弁使うなよっ」
と伊東が吠えている。

『そやけど、今回のことで、やっぱし夫婦も家族も、余所見(よそみ)せんと心を合わせてやっていかなあかん、っていうことが、ようわかりましたわぁ。
ほんま、雨降って地固まる、ですなぁ。
……専務さんにもご心配をおかけしました』

先刻(さっき)の息子同様、スマホの向こうで頭を下げている気配がした。


……知るかっ!
そっちは大団円でも、こっちはこれから修羅場だっ!!

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