もう一度、愛してくれないか
「おぉ、怖ぁ……京都やおへんお人は、言葉ぁきっついわぁ」
七条は興戸の言葉遣いに眉を顰めた。
今風の眉なのに、なぜか一瞬、平安貴族の引眉に見えた。
「うちもアンタとおんなし京都やっ!
今時の京都人は『おへん』なんか使わへんでっ」
興戸が叫んだ。
彼女は京都府京◯◯市出身だった。
「いやぁ、うち、いつも感心してますねん。
興戸さんは『洛外』やのに、よう恥ずかしげものう『京都出身』って言わはるの」
七条は微笑んでいるが、目は決して笑ってない。
彼女は『洛中』である京都市内で生まれ育った。
その感覚からいうと、京◯◯市は奈良だった。
「めっちゃ、腹立つぅ〜っ!
『洛中』だけが京都や思っとる市内のヤツらぁ〜っ‼︎」
七条は興戸の怒り狂う姿を見て、ようやく目元も緩ませた。
……ああっ、興戸さん、興奮せんといてくださいっ!
豊川は青くなる。
だが、実は七条は京都市内でも東◯区出身で、厳密にいうと洛中ではなく『洛東』である。
だから、中◯区や上◯区出身者から見れば、彼女もまた洛中ではない。
京都人の「いけず」は、かくのごとく奥深い。