向日葵
ガチャリとドアを開けてみれば、ベッドに仰向けに寝転がった状態のクロは腕で顔を覆い、咥え煙草のままに、あたしに気付いたのか視線だけをこちらへと投げた。


思わず顔を俯かせると、“おいで”と、そんな台詞。



「良い匂いするね。」


「…桃、って書いてたけど…」


「へぇ、美味しそう。」


クスリと笑みを漏らした彼は、そんな言葉と共に煙草を消した。


心臓の音はやたらとうるさいばかりで、これ以上近づけば、それがクロまで届いてしまいそうで。


伸びてきた指の先にビクッと体を強張らせると、一旦止まったそれは、あたしの髪の毛を掬い上げて。



「ちゃんと乾かさなきゃ、風邪引くよ。」


あたしの毛先を指の先で遊びながら、そう言った彼は、何故かあたしをお風呂場へと連れ戻して。


ドライヤーを片手に持つ姿に戸惑えば、頭の上から熱風が注がれる始末。



「俺、こう見えても美容師になりたいと思ってた頃があって。」


「…それ、諦めたの?」


「まぁ、そんなとこかな。」


「勿体ないね。」


「何で?」


「夢、あっただけでも羨ましいから。」


「そうでもないよ。
現実を無視して夢が見られるほど、俺の人生なんて楽しいもんじゃなかっただけ。」


心地の良い熱風と共に、少し悲しげな瞳が目の前にある鏡越しに落ちた時、“完了♪”なんて台詞のままに、真上から注がれていた風が、ピタリと止んだ。


幾分湿度が高めで息苦しくて、恐る恐る振り返るように顔を向けてみれば、“どしたの?”なんて、はぐらかすような台詞が聞かれて。


少しばかり、胸の奥が締め付けられた。



「聞きたいんでしょ、ホントは。」


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