向日葵
自分の感情に名前を付けられるほど、残念ながら脳は上手く機能してくれず、だけど、たゆたう意識の中に、クロだけが存在していた。


手放してしまいそうだったそれを辛うじて繋いでいるのは、絡め合う指先のみ。


これが“愛”と呼ばれるものだとするならば、間違いなくあたしは、クロを愛しているのだろう。


見つけ出した答えは、結構簡単なものだった。









「寝るなよ。」


弾かれたように顔を上げてみれば、困ったように肩をすくめた彼からの視線が向けられていて。


状況を確認しようとしてみれば、何故かあたしは、クロと共に湯船に浸かった状態で。



「つか、目開けたまま寝るの、お前か魚しか居ねぇよ。」


「…いや、寝てないんですけど…」


「じゃあ、さっきのこと思い出してた?」


「―――ッ!」


いたずらに向けられた瞳に驚けば、“図星だったんだ”と、そう言った彼はクスクスと隠すこともなく笑みを漏らして。


言葉が出なくなって頬を膨らませ、不貞腐れたように顔を背ければ、“怒るなよ”と、そんな台詞。



「けど、お前が一緒に風呂入りたいとか言ったんだぜ?」


「言ってないよ。」


「そうだっけ?」


「そうだよ。」


あたしはただ、行かないで、なんてことを言っただけ。


一回り大きな浴槽で膝を抱えるように身を縮め、乳白色の入浴剤に隠れるようになるべく小さくなってみるも、クロとの距離は取りがたく。



「さっきはあんなに可愛いこと言ってたくせに。」


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