向日葵
どんな挨拶だよ、と。


そう思ったのだが言葉を飲み込み、無視を決め込んであたしは、そのまま夜の街へと足を進めた。


すぐに人の波が、あたしの姿をそれの中へと溶け込ませ、キャッチらしき男がチラチラとこちらを伺っていて。


振り返ろうかとも思ったのだが、何となくやめといた。



「…クロ、ねぇ。」


そう呟いた声は騒喧に消え、代わりにイカつい車のヘッドライトに照らされる始末。


人を好きになんてなりたいとも思わないし、付き合うとかそんなことをすることすら面倒で。


あたしは早く、お金を稼がなきゃいけないんだ。


生きるために、そして復讐のために。


愛だの恋だのと、そんなものは必要ないのだから。


思い出すのはいつも、男女の言い争う声と、食器の割れる音。


アルコールの混じった脳に、そんな過去の苦々しい記憶がフラッシュバックして、小さく震える拳を握り締めた。


家を出てから一年半、あたしは一体どれだけのものを捨ててきたのだろうと、そんなことを思いながら、自嘲気味に笑ってしまう。



< 15 / 259 >

この作品をシェア

pagetop