向日葵
先日吹いた春一番の影響なのか、今日も街に吹く風は少しばかり強いもの。


桜の花は三分咲きだとか言ってたけど、だけども街の中心部では、薄紅色はおろか、新緑さえも拝めないのだから。


季節を感じることが出来る唯一の方法は、ショーウインドウに並べられた服ばかり。


今日も巡回通りに立ってみれば、相変わらずのせわしなく歩く人々の群れを見つめながら、憂鬱な気分は抜けないまま。







「…夏希?」


不意に名前を呼ばれ、反射的に肩を上げてみれば、知った顔がこちらに小走りで近付いてくる。


この顔は、忘れもしない、昨日の男。



「出た!」


「…その言い方はないっしょ。」


隠すこともなく口元を引き攣らせてやったのだが、昨日の彼は何ら動じることもなくあたしの横に来て、そして煙草を取り出すようにしてフェンスへと体を預けた。


てゆーか、何でいつの間にか仲良しごっこみたくなってんだろう。



「いや、この辺歩いてたら遭遇するんじゃないかな、って思って。」


「てか、何でも良いから営業妨害しないでよ、クロ。」


「してないじゃん。」


「してるじゃん。
誰が隣に男が居る女に声掛けようとか思うわけ?」


「ははっ、それもそうだな。」


そうは言ったもののクロは、この場所から立ち去ってくれる気配は皆無で。


何だかもう、大声を張り上げる気力さえもなくてあたしは、諦めたように煙草を取り出した。


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