向日葵
そう言った彼によって、軽く唇を触れさせる程度のキスが落ちてきて、そして電気が消された。


もちろん真っ暗が嫌なクロのために豆球の明かりは灯されたままで、あたし達の傷はまだ、完全に塞がったりなんかしていないことを表しているのだけれど。


抱き締められているのか、抱き締めているのか。


頼りない二人分の弱さの中で、いつもあたし達は眠りに落ちるのだ。








『そんなに言うなら、夏希はあたしが引き取ってあげるわよ!』


もう、こんな両親の喧嘩がいつのものなのか、定かではなかったけど。


確かこの時は、リビングに母親の金切り声が響き、父親は言葉の代わりに灰皿をフローリングへと叩き付けたんだっけ。


もちろんガラス製のそれはガシャーンと音を立てて砕け散り、その瞬間に一面は足の踏み場を失ったのだけれど。


“またそうやって暴れるのね”と、母親はため息を混じらせることしかせず、見守っていたあたしにひどく冷たい瞳を投げて。



『その代わり、慰謝料と毎月の養育費、払ってくれるんでしょ?』


『何を言う。
男が居るんなら、そんなもの必要ないだろう?』


『あらそう。
じゃあ、お金もくれないならあたしは夏希なんかいらないわよ。』


そう、まるで吐き捨てるような台詞は、よくもまぁ、あたし本人を前に言えたなとは思うのだが、そんな常識や道徳観念が通じる親ではないことくらい、今更だろう。


辛くない言えば嘘になるが、それでも期待なんてしてなかったから、ショックはさほどでもない。



『…もうやめようよ、喧嘩なんか…』


ため息を混じらせたあたしに向かい、お前の所為だろうと言わんばかりの父親に突き飛ばされて。


刹那、壁で背中を打ち付けてゴホゴホと咳き込むあたしに彼は、容赦もなく拳を振り下ろした。


頭を鷲掴みにされ、当然髪の毛は抜け、ひどい鼻血の中で徐々に意識が遠のいていく。


父親に殴られながら、薄目がちに見えた母親は携帯片手で、目の前で繰り広げられているはずの場面を制止するどころか、どこかテレビの中での出来事のように捉えているのだから、嫌になる。


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