向日葵
「智也のことも、ご迷惑お掛けしていないかと思うと心配で。」


「アイツ、すっげぇ真っ直ぐなヤツだから。
良い人に育てられたんだなって、何かそんなこと思いました。」


「ありがとう、龍司さん。」


クロの言葉はきっと、嘘も偽りもないものだと思う。


きっと香世ちゃんは、あたし達二人が求める母親像そのものなのだろう、だってクロの顔は、どこか恥ずかしそうだから。


そんなあたし達を見つめた彼女は一度吐息を吐き出し、そして顔を上げた時にはもう、看護師のそれだった。



「なっちゃんのお父さんね。
今もまだ、意識は戻ってないの。」


「…死ぬ、の?」


「わからないわ。
意識が戻れば、快方に向かうと思う。
もちろん、後遺症が残る可能性は否定出来ないけど。」


「…戻らなかったら?」


そう問うた時、彼女は口を開かないまま、ただ首を横に振るのみだった。


それが意味することはひとつで、“そう、なんだ”としかあたしは、言えないまま。



「会うこと、出来る?」


少しの勇気を持って問い掛けた言葉に、彼女は一瞬瞳を大きくしたのだけれど、でも、“少しならね”と、そう返してくれた。


看護師の顔をした香世ちゃんは、お父さんが居るのであろう病室へと向けて足を進め、一度顔を見合わせたあたしとクロも、その後ろへと続く。


長く真っ白な廊下を、時折人とすれ違いながら歩いてみれば、次第にその数は減っていく。


それはこの場所が、許された人間しか入れないと言うことを表しているのだろう。



「ここよ。」


そう、彼女はひとつのガラスの前で足を止めた。


もちろんそこにはカーテンが掛けられているために中の様子は伺えないが、一般の病室と呼ぶには程遠いそれは、父親の症状がいかに深刻かと言うことだ。



「…入って、良い?」


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