向日葵
暑さに耐えきれなくて目を覚ました時、見渡した部屋の中には当たり前だけどクロの姿はなくて、またあの夢を見てしまったのかと思わされる。


上体だけを起き上がらせてみれば、絨毯の上で寝ていたためか、体中が軋むように悲鳴を上げていた。


机の上は昨日智也が帰ったそのままで、飲みかけのビールが残されたまま。


数口しか飲んでいたないはずなのに、頭は割れるように痛いのだから、嫌になる。


一日一日、あの日から確実に遠ざかっているはずなのに、なのにあたしの中で、あの人の存在は膨れがる一方で。


どうしてこうも、囚われるばかりなのだろう。


流しまでビールの缶を運び、逆さに向けてそれを流してみれば、ボトボトと金色の液体が陽の光を浴びていた。



「…仕事、行かなきゃ…」


働くことは、やっぱり好きじゃない。


怒られるのも、愛想振りまくのも苦手だけど、それでも働かなきゃ暮らしていけないし、何より働いてる間だけは、無駄なことを考えなくても良いから。


いつまでこんなことを繰り返せば、あたしはクロのことを忘れられるのかな。



『いつか、俺がもっと強くなれたら、ちゃんと迎えに行くから。』


迎えにも来ない男のことなんて、本当はもう、忘れてしまわなきゃいけないのに。


刹那、携帯のアラームがピピピッと鳴り、嫌に軽快な電子音は、起床時間を告げてくれた。


ひとりで生活するようになって、料理も前より覚えて、病院だって通ってるって言うのに。


なのにちっとも強くなれた気がしなくて、ため息ばかりを混じらせてしまう。



『強く、なろうね、お互い。』


もしも、クロのことを忘れた時にこそ強くなれるのだとしたら、そんな皮肉な話はないね。


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