向日葵
「悪いけど、アンタのキャバクラなんて死んでも行かないから。」


確か智也から聞いた話だと、金融屋の他にも飲み屋や風俗なんかを手広く経営していて、彼はこの街ではちょっとした有名人なんだとか。


だけど、あたしにだってプライドはあるし、こんな人に雇われたくなんてない。



「こっちだって、一番の売り上げを誇ってるところで、キミみたいな敬語も使えないような子なんか雇ったりしないよ。」


「…じゃあ、何?」


「今度、新しく店を開くことになってね。
バイトの子を見つけるのも面倒だから、キミで良いやと思って。」


「何それ。
勝手すぎるし、付き合いきれないんだけど。」


「こんなに頼んでるのにダメなの?」


「ダメも何も、頼んでないじゃん。」


白灰色を漂わせながらあたしは、口元を引き攣らせることしか出来ないで居る。


第一、頼んでるならもう少し、下手に出てくれても良いと思うんだけど。


こんなところまでクロと似ていて、本当に嫌になる。



「お断りします。
ってことで、話それだけなら帰るから。」


「待ってよ。」


「あたし、忙しいの!」


「でも、午後までは暇なんでしょ?」


立ち上がろうとしていたあたしを止めたのはそんな言葉で、思わず眉を寄せると、相葉サンは嫌味のように口元だけを上げた。



「店、見てから決めなよ。」


「見たって一緒でしょ?」


「それはキミ次第だよ。
きっと気に入ると、俺は思うけどな。」


何を言っても上手く丸め込まれてしまいそうで、頭を抱えるようにしてあたしは、ため息を混じらせた。


確かに病院に行くにはまだ少し早いし、用事がないのは本当のところだけど、でも、行かなきゃ帰れそうにもない。



「…わかったよ、もう。」


< 243 / 259 >

この作品をシェア

pagetop