向日葵
「海行きたーい。」


「お前が牛乳飲めるようになったらな。」


「ケチ。」


はいはい、と言った顔でクロは、そんなあたしの言葉を受け流してしまう始末。


大体がこんな調子で、智也にも相葉サンにも、子供の喧嘩のようだと言われてしまったんだけど。



「じゃあ良い。
他の男に連れてってもらうし。」


「へぇ、いってらっしゃい。」


立ち上がり、きびすを返したあたしに彼は、そう余裕タップリの顔で手をヒラヒラとさせるだけ。


本気で腹が立ってそのまま家を出たのだけれど、クロは追っても来ないのだから。


靴音響く階段を降りてみれば、駐車場には安アパートに似つかわしくない高級車が止められていて、もちろんこれはクロのもの。


今日もサンサンと注ぐ日光に照らされて黒光りしてピカピカなのにまた腹が立ち、蹴り飛ばしてやりたくなるけど、でも、本気で怒られそうだからそれはしない。


刹那、“夏希!”と上から落ちてきた声に顔を上げてみれば、ベランダから顔を覗かせていたのはアホ男で、眩しさも手伝ってあたしは、思わず眉を寄せてしまうのだけれど。



「ついでに牛乳ね。」


そんな言葉と共に降ってきたのは、アンパンマン。


手の平サイズのちっちゃなポーチで、あたし達の食費が入っているそれを何とかキャッチすると、“早く帰ってこいよ”と彼は、そんな台詞。


外に出て数十秒で暑さにやられ、すでに戦意喪失のあたしがため息を混じらせると、二階から落ちてきたのは笑い声。


仲直りとか、そんなのあまりしたこともなくて、きっと今日もまた、牛乳買って戻ってきたら、普通の顔したクロがそこに居て、すぐにまた、いつも通りになっちゃうんだ。


ムカつくことなんて山ほどだけど、でも、それも悪くないのかな、なんて思ってる自分が居る。



「バーカ。」


それだけ言ってあたしは、きびすを返した。


もちろん、スーパーに牛乳を買いに行くためだ。


< 253 / 259 >

この作品をシェア

pagetop