向日葵
クロはそんなあたしを何も言わずにただ抱き締めてくれ、ソファーへと座らせてくれた。


力が抜けたように彼の胸へともたれ掛かると、ダイレクトに聞こえる心臓の鼓動に、幾分穏やかにさせられる。



「あたし、家出してね。
行く当てもなくてこの街まで来たところで陽平に拾われて、それから一緒に暮らしてるの。」


「…うん。」


「でもアイツ、タマ喰っててさ。
今までそれに気付かなかったとか、すっごい自分のことが馬鹿みたいだとか思えて。」


キュッとクロの服を握り締めると、やっぱり少し震えてる自分が居て、情けないなと、そう思わされるばかりだった。


それでもただ吐き出したくて、“言わなくて良いよ”と、そんな風に言うクロの言葉を遮って。



「ラリってる陽平に殴られて、それでヤられまくって。」


「夏希!」


今度遮られたのはあたしの言葉で、思わずビクッと肩を上げてしまう。


だけどもクロの次の言葉は“ごめんな”で、恐る恐る顔を上げると、視線を落とした顔はこちらには向かないまま。



「これからは、俺が居るから。」


「―――ッ!」


「ちゃんと傍に居るから。
だからもう、お前は苦しむな。」


持ち上げられた瞳はひどく真剣で、戸惑うようにあたしは、視線を泳がせた。


男なんて信じないんだと誓ったはずなのに、いつの間にかあたしの中でクロの存在は消せないほどに大きくなっていて。


でも、過去の記憶ばかりに支配され、また同じことが起きればと、そんなことを思うと、意志とは別に、体が震えてしまう。



「なぁ、夏希。
俺のこと、ちゃんと見ろよ。」



< 73 / 259 >

この作品をシェア

pagetop