騎士団長のお気に召すまま
父の仕事の失敗をきっかけに、全てが一変してしまった。


決して少なくはなかった財産もほとんど失い、多くの使用人達は屋敷から立ち去り、屋敷もすっかり寂れてしまった。

夜会に出席したのも、もう何年昔のことだろう。


あの日の輝きなど嘘のようだ。


ミルフォード家はもはや貴族社会の最下層だと言っても過言ではない。



「けれど、シアン様とはもう何年も会っておられないのでは?私がこのお屋敷に来てから、お会いになった記憶がございません」


ロイドの言うとおりだった。

ロイドがミルフォード邸に来てから、アメリアは一度もシアンと会っていない。

家同士に交友関係もあり、なおかつ幼馴染み、そして許嫁でもあるというのに、十数年も会っていないというのは、滅多にあることではなく非情におかしなことだった。

それはアメリアも気にしていたが、しかしやむを得ない事情があった。



「シアンが騎士学校に通うようになったの」



シアンの兄が家督を継ぐことが正式に決まってから、家督を継がないシアンは騎士の道を歩むこととなった。

というのも全ては、シアンの兄がアクレイド家の家督を継ぐためである。

兄弟のうち誰かが家督を継ぐと、家督を継がなかった者はそれまで手にしていた伯爵家子息の地位を失い、富も名誉も失ってしまう。

全てを一からとは言わないまでも、自力で地位を築いていかなければならず、それは自分が家督を継ぐまで変わらない。


今の貴族社会は家督を継がない貴族の子息は非情に厳しい世界でもあるのだ。

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