騎士団長のお気に召すまま
アメリアは驚いて「ミアどのにそんなことができるのですか?」と聞き返す。

ミアは伯爵令嬢であるとはいえ、当主ではない。一娘にそんなことができるなど考えられない。


「貴女を脅すとか、方法はいろいろあるでしょう。穏便なところでは、許嫁の関係を解消すれば、あるいは退団すれば、ミルフォード家を優遇するとか。

きっとこの夜会に出席しなければもっとひどい目に遭わされることでしょうね」


アメリアは溜息を吐いた。

あまりにも泥沼なこの貴族の社会に嫌気がさす。

全くもって生きにくい世界に生まれてしまったものだ。

それでも貴族令嬢としてこの世界でなんとか生き抜きたいと望んではいるが。


「けれど、不安です。夜会にも出たことはほとんどありませんし…」


その発言に驚いたのはシアンだった。


「夜会に出席したことがない?」

「はい。今までに1回か2回か、そのくらいです」


絶句するシアンに、アメリアは気まずくなって視線を逸らす。

貴族が夜会に出席するのは当然のことであり、寧ろ積極的に出席したいと願うのが普通だ。

夜会に出席することで様々な貴族と出会い、縁を結ぶことができる。

それは恋愛においても、仕事においてもそうで、だからこそ令嬢だけでなく子息らにとっても大変に重要な出会いの場になり、重要視されているのだ。


シアンは口元に手を当てて少し考えこむような仕草をした。


「ミアの夜会はいつです?」


「明後日の夜です」


「明後日の夜、ですか」


アメリアの答えを聞いたシアンは執務机に座るとまっさらな紙を取り出して何かを書き始めた。

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