騎士団長のお気に召すまま
「働く必要なんてないのではなくて?」というミアの言葉はもっともだが、現状は違う。

今、アメリアとシアンの関係は、元許嫁であり、元婚約者。

そのうえ、父親が事業で失敗してしまったために家族の生活費を稼ぐ必要があるのだ。


「ああ、私としたことが、とんだ間違えをしてしまいましたね。

__元許嫁、でしたわね」



ミアの声の温度が下がった。張り詰めていく空気にアメリアは溜まらず表情が強ばる。冷や汗が背筋を流れた。


「ねえ、ご存知なのでしょう? 今シアン様の婚約者は、この私、ミア・キャンベルだと。

言いたいことは分かりますわよね?」


徐々に棘を見せる言葉はまるで薔薇の花よう。

美しい見た目の下にはちゃんと棘がある。

鋭さを増していく、憎悪という名の毒を含んだ棘が。


「自分の婚約者の周りに他の女がうろついているというのは、腹立たしいことなのです」


つまりこれはシアンに近づくなという宣告だった。

確かにミアの言うことにも一理ある、とアメリアは思った。

自分の婚約者の周りに元婚約者だという女がいて、自分の立場を危うくしようとしているのだ。腹立たしいに違いない。とても看過できるものではないだろう。


自分が本当に婚約者であるのなら。


「お言葉ですが、ミアどのはシアン様の正式な婚約者ではないのですよね? シアン様もミアどのとは婚約関係にはないとおっしゃられていましたが」


冷静さを失わずに淡々と告げるアメリアに、ミアは怒った。立ち上がってアメリアを睨みつける。


「今はまだ、というだけですわ!」


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