ありふれた恋。
特別な夜と、いつもと違う朝。

玄関の鍵をそっと開け、侵入を試みる。

音を立てないように静かに靴を脱ぎ、忍び足で廊下を歩く。

頻繁に出入りしている部屋では暗闇に慣れていない目でもスムーズに移動できる。


慎重にお目当ての人物が眠っているベッドへと近寄るが、


「なにしてるんだよ」

「……起きてたんだ」



ああ、がっかり。
せっかく添い寝でもして一緒に爽やかな朝を迎えようと思ってたのに。


「こんな夜中に、男の部屋を訪ねてくるなよ」


不機嫌そうな低い声。

ううん、陽介(ようすけ)の機嫌が悪いのはいつものことだ。

睡眠を邪魔されたせいか、いつもより深く刻まれた眉間の皺も見なかったことにしよう。



「ねぇ知ってる?」


眠そうに片目を開けている陽介に顔を近づける。


「今日、私の誕生日なんだよ?」

「知らない」


即答されて、少し寂しくなる。


陽介から離れて溜息をつくが、

「…冷蔵庫に、ケーキある」



静かな声が、響いた。



「え…」


陽介はちらりと目覚まし時計に目をやると、再び目を閉じる。


「まだ日付が変わるまで15分ある。それまで寝かせろ」

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