navy blue〜お受験の恋〜
「今日は、以上となります。ご質問のある方はこの後、宮部が承りますのでお声かけてください。どうもありがとうございました。」

百瀬が丁寧に頭を下げると、親たちも頭を下げ、皆バラバラと立ち上がった。

「友利さん、この後お時間よろしいですか?」

「あ、はい。」

百瀬に声をかけられ、みちかは返事をする。
先日、話した時に、体験後、面談をさせてくださいと言われていたのだ、

「こちらでお話しさせてください。ちょっとお待ちくださいね。」

そう言って、手早く机と椅子を組み合わせ、あっという間に三者面談の時のようなレイアウトで席を作った。

「どうぞ、こちらにおかけください。」

「ありがとうございます。」

みちかは百瀬が用意してくれた席に座った。
他の保護者は皆居なくなり、百瀬と2人きりとなった。
百瀬が立ったまま手元のバインダーに目を通している。
静かな教室に、パラパラと紙をめくる音だけが聞こえた。

「乃亜ちゃん、楽しそうでしたね。」

そう言ってふふ、と百瀬が嬉しそうに笑った。

「ホッとしました。百瀬先生のお陰だと思います。娘は先生に、とても心を開いていますね。」

「いや、でも、乃亜ちゃん素直だから。僕なんか助けられてますよ。」

バインダーから1枚、プリントを抜き取りながら
百瀬が言った。
そしてそれをそっとみちかに向けて机の上に置くと、みちかと向かい合う感じで椅子に腰かけた。

「それでは面談させていただきます。改めまして、今日はお越し頂きましてありがとうございます。えっと、まずは、サンライズ体操教室の年間の詳しいカリキュラムがこちらの通りです。」

百瀬の長い指がスッと伸びて、カリキュラム表の『年長4月』という欄を指している。

「今日はこの内容で進めさせて頂きました。基本はこの流れで、常に子供達の様子を見て苦手な課題があればそれも繰り返し入れて行くような感じでやっています。後は、夏を過ぎた頃から志望校の傾向に合わせた指導も入れて行きます。」

みちかはうんうんと頷いた。

「乃亜ちゃんの志望校は、聖ルツ女学園でしたよね?」

百瀬の言葉にみちかはプリントから顔を上げた。
安心感を覚える、カラッとした笑顔。
今まで体験したどの教室の講師もルツ女などの難関校の話になると眉をひそめたり、声のトーンが落ちたり、そのたびにみちかは不安な気持ちになったものだった。
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