極甘同居~クールな御曹司に独占されました~
それはともかく、送迎という贅沢は一度覚えてしまうと、元の生活に戻れるか自信がなくなるほど極楽だ。

青々と茂った銀杏並木を高級車がなめらかに加速する。


「この並木はどの季節も味わいがありますね」


〝どの季節も〟って、他にも来ていたのだろうか?
中島さんの言葉を不思議に思いながら、疲れた身体を柔らかなシートに預けて窓から並木を見上げた。


葉が黄金色に染まる秋が終わると、銀杏の木は管理業者によって丸裸に枝を落とされる。
ほとんど幹だけで、枯れてしまったのではないかと心配になるほどだ。
でも、春になると驚くほどの生命力で枝を伸ばし、通りを若葉色で包んでくれる。

毎日疲れた体でペダルをこぐ私には景色を愛でる余裕はなく、この道は苦行の場でしかなかったけれど、中島さんにしみじみと言われると、毎年の見慣れたサイクルが新鮮に思えてくる。



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