恋をしようよ
10
あれからあっという間に結納も済ませ、結婚式の日取りも決まり、今日はナツと2人で区役所に婚姻届を提出に来ていた。

ナツの左手の薬指には、結納の時に渡した婚約指輪が光っている。
生まれて初めて、一生伴に生きていたいと思った愛しい人。

あの時親父が余計なことをしなかったら、きっと俺たちはずっとあの時のままの関係をだらだらと続けるだけだったのかもしれない。
もう40過ぎた頃から、結婚はどうでもいいと思っていた。ナツがそばに居て、可愛い甥っ子姪っ子たちをかまってやっていれば、それでいいと思っていた。

ぶっちゃけ俺の家に嫁に来るというのは、相当面倒くさい事だと思うし、そういう環境に好きな女を引きずりこんでしまうということは、罪悪感さえ感じることもあった。

玉の輿と思う人もいたかもしれないけれども、そんな簡単なもんじゃないんだ、何百年と続いている華道を引き継ぐということは。



届けを出し終わった後、俺たちが向かったのは姉貴の花屋で、そういえばナツを連れてきたのはこれが初めてだったと改めて思う。

いつもは近所の居酒屋で大野と飲んだ後こっちに来るのだけど、今日は花屋で待ち合わせをしていた。確かさっちゃんも来るらしい。

もうすぐ店も閉店の頃、店のかたずけをしている姉ちゃんに声をかけると、ナツが慌てて挨拶をしている。
「りんさん、ご無沙汰しています。」
ナツはずっと前から姉ちゃんと知り合いだったくせに、こういったプライベートは知らなかったからな。

今日は小百合も帰った後でよかったと、少し安心する。まだどこかで、まともに会うことを避けているのはしょうがないよな。
元カノがここで働いてるなんて、ナツにはまだ言えそうもないから。


店の奥の居間に上がると、桃がいそいそと食事の用意をしていた。
「お、きたきた、おっさんいらっしゃい。」
そんな風に声をかけていたのは、桃の彼氏のエイジで、二人で仲良くテーブルセッティングをしている。

二階から義兄ちゃんと蓮も降りてきて、ナツに挨拶をすると、大野とさっちゃんも丁度到着して一気に人が多くなった。

姉ちゃんが店のシャッターを下ろしてこちらにやってくる、早速宴会を始めるべく義兄ちゃんが乾杯の音頭を取ってくれた。


「それじゃあ、カズさんナツさん、ご結婚おめでとう!!」

いつもの瓶ビールを一気に空けると、なんだかやっとここまで来たんだと改めて実感していた。
< 48 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop