恋をしようよ
いままで気が向いたときにふらっと行くだけだったロックナイトに、珍しく次の週も行っていた。

男なんて単純だ、会いたい女が居るから行くんだ、それだけだ。


ナツはいつものカウンターの一番隅の席を定位置にしているようで、ずっとシャンディガフを飲んでいる。


「よう。」

気軽に声をかけると、今日はちょっと機嫌がいいのか、笑い返してくれた。


「どうした、可愛いじゃん、そのグロス。」


Tシャツにデニムってスタイルは変っては居ないものの、ほんのり化粧をしていて、唇がつやつやしているのがわかった。
女の子は、そういうの気付いて欲しいもんだろ?


「別に、いつもこんなですよ。」


全身で褒められて嬉しいって言ってるみたいに、真っ赤になってるから、また強がってんなって思った。



一週間たって、彼女は俺のことをどう思っていただろう、少しは思い出してくれていたかな?
俺はあえて、あの時連絡先の交換すらしなかったんだから、わざと。


ここに来なきゃ会えない、そういう状況ってちょっと萌えるじゃないか。



「そういえばナツってさ、何の仕事してんの?」


先週は音楽のことしか聞かなかったから、そういう突っ込んだ話をふってみる


「私、音楽ライターしてます。あそうだ、名刺・・・」


財布の中から一枚のカードを取り出して俺に渡してくるから、それをまじまじと見ると、結構有名な渋谷の出版社の音楽雑誌の名前が書いてあった。

”夏川淳”Nnatukawa Sunao ナツって苗字だったのかって気づく。

この出版社なら、俺も別系列で取材受けたことあったなあ・・・イケメン華道家がどうとかで。


「じゃあ俺も。」

いつもの名刺を彼女に渡すと、名前を見たとたん一瞬でびっくりされた。



「池乃壕の御曹司!?」

そんな風に言われて一気に照れる。ちゅーかそういうの知ってんだな。


「わかんの、生け花とか。」

「若い頃、ちょっとだけ生け花習ってましたから、池乃壕で。」

以外にもそんな答えが返ってきたので、なんだかちょっと嬉しくなった。

「いまはやってないの?」

続けていたらいいのにって思ったけど、やっぱり今はもう全くやっていないらしく、もったいないなって思う。


「花はロックだからな・・・うちの母親がよく言ってる。フラワームーブメントに生きてきた人だから。」


そんな風に話し出すと、うちの母親のことも知っていたのか、そんな過去があったなんてと言ってびっくりしていた。


「和美先生って、今じゃそんな風に見えませんものね・・・」


名刺交換をしたとたん、何だかナツは仕事モードにシフトチェンジしてしまったのか、今までの人見知り口調と変って、普通のトーンで饒舌に話し出す。

それがなんだか、とても寂しく思えた。

「どこで習ってたの?お花。」

「うちの母親の親戚の方からです。実家の近くに住んでて、学生時代はずっと週一で通ってました。
就職して、こっちに来て、それでなんとなく辞めちゃいましたけど。」


何だかもったいないなって言ってあげたら、
「じゃあ、カズヤさんまた教えてくださいよ。」
なんて、社交辞令な口調で言うから、ノリでいいよって答えていた。

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