外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
本当にそれどころじゃないのは重々承知しているし、六月の終わりのお茶会は、奏介に言われた通り、素人気分で楽しむつもりで参加するしかないだろう。


「まあ、最初からなにもかも理想通りには進まないか。結婚って」


店員さんが離れていくのを見送って、なつみが早速箸を割る。
その声でハッと我に返り、私は勢いよく顔を上げた。


「一生ものの、揺るぎない幸せを確立するための試練だね」


なつみがお椀を手に取るのを見ながら、私も箸を手に取った。


「試練……」


彼女は何気なく言ったのだろうけど、私はその言葉尻を拾って繰り返していた。
私にはもったいないくらいの幸せ。
奏介との結婚を、私はそう思っている。
それならば、なつみの言う試練も、人より厳しく険しいものになるんじゃないだろうか。


箸を割っただけで、私は手を止める。
それを乗り越える力が、今の私にあるだろうか。
お茶会での情けない自分を思い出し、どんよりと重い暗雲が胸に立ち込めていく。


奏介との結婚で、有頂天になるばかりだった自分を、今、初めて自覚した。
出会いからの半年が夢いっぱいで幸せだったから、私は『結婚』をゴールにして満足していたのかもしれない。
でも、違う。
結婚した後の幸せは、私と奏介だけのものではなく、お互いの家族も巻き込むもの。
そうしてやっと、新たな幸せが確立するのだ。
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