外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
彼はそれを見逃さずに、『ん?』と私を見遣ってくる。


「あ。いえ、なんでも……」


私は急いでそう濁し、藤悟さんの向かい側のソファに回ると、浅く腰を下ろした。
彼はそこまで私を目で追っていたけれど、大きく開いた足に腕を乗せ、わずかに身を乗り出してくる。


「もしかして……やっぱり、周防の嫁は楽じゃなかった?」


上目遣いの目を向けながらズバリ言い当てられ、私は「う」と口ごもった。
そのまま返事に窮して目を泳がせると、藤悟さんは肩を揺らしてくっくっと笑う。


「まあ、確かに。土曜日のお茶会は、七瀬さんにはちょっと大変だったかね」

「ほ、本当にお恥ずかしい限りです。なんの役にも立てないどころか、目も当てられない数々の失態を……!」


藤悟さんの言葉に導かれて、土曜日のお茶会のことを脳裏に蘇らせる。
あまりの羞恥で、顔から火が出る思いで、私は勢いよく頭を下げた。
藤悟さんは「いやいや」と軽い調子で言ってくれる。


「七瀬さんには心得がないんだから、仕方ない仕方ない」

「あの……だから、次こそは挽回したくて、少しでも奏介に教えてもらおうと思っていたんですけど……」


歌うように節をつけた声を聞きながら、私は顔を上げてボソッと言った。


「けど?」


つい『けど』で言葉を切ってしまったのを、聞き拾われてしまった。
私は肩を竦めて、思わず声に出して溜め息をつく。


「……昨夜も、仕事で呼び出されちゃって」
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