イジワル上司にまるごと愛されてます
 両頬を軽く叩いて気持ちを立て直し、ロッカールームを出た。来海がオフィスに入ってきたのに気づいて、四十八歳の水沼(みずぬま)部長がデスクから立ち上がり、両手をパンと鳴らす。

「全員出社したな。はい、みんな注目」
(ついにこのときが来た)

 来海は覚悟を決めて輸入企画部の奥に視線を向けた。スーツを着た数人の社員の向こうに、ダークグレーのスーツ姿で貫禄を感じさせる体型の部長が立っている。そして、その横に……雪谷(ゆきたに)柊哉(しゅうや)の姿があった。一八〇センチを超える長身で、すらりとした体躯に細身の黒いスーツがよく似合っている。柔らかな茶髪は無造作に整えられていて、少し顎のラインが男性らしく逞しくなったように思える。けれど、くっきりした二重と形のいい唇は、今でもどことなく甘さを感じさせる。

(四年前とぜんぜん変わってない……。というより、男っぽさが増したかも)

 胸がキュウッと締めつけられて、どうしようもなく苦しくなる。

(私のバカ。四年も経ったのに失恋を乗り越えられてないなんて)

 鼻の奥がつんと痛んで涙の予感がし、来海は思わず視線を逸らした。
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