SKETCH BOOK



「これお土産。ちょっとだけど」


「わあ、ありがとう!」


中身を開けてみると、
小さな可愛い香水だった。


キラキラしていて、ピンクの香水は
微かにいい香りがする。


その香水をシュッと振りかけると
なんだか自分がすごく
素敵な女性になれた気分になった。


「どう?」


「うん。いいと思う。梓にピッタリだ」


香水を袋にしまって浩平を見ると、
少し照れ臭そうにしながら笑った。


この香水を選んで買ってきてくれた浩平は、
どんな思いでいたのかな?


あれもこれもって一生懸命選んでくれて
やっとの思いで買ってくれたに違いない。


きっとそう。


だって浩平はそんな人だから。


『早く気持ちを消すか、
 それか別れるしかないよ?』


急に百合の言った言葉を思い出した。


ないない。


別れるなんてそんなこと、
あり得ないんだから。


「梓?どうかした?」


「う、ううん。なんでもないよ」


「それより、もうすぐ九月だな」


「そうだね」


「もうすぐだろ。その、さ、
 鳴海梓になるの」


「あ……うん」






もうすぐで九月。


九月になったらあたしは
鳴海になるんだ。


今までと変わらないけれど、
ただ一つ変わることがある。


それはあたしが橙輝の妹になるっていうこと。


今までみたいなことは許されない。


この気持ちを永遠に閉ざす時がやってきたの。


クラスメイトなのか家族なのか、
その曖昧な関係もあと数日。


戸籍上兄妹になればきっと、
あたしの気持ちも諦めがつくはず。


そう思えばこれは嬉しいことなんだ。


みんなが幸せになる。


あたしも、浩平も、橙輝も。


それでいいんだ。きっと。




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